- ホーム
- >
- 市ヶ谷リベラルアーツセンターセンター長あいさつ
近年、急速に変化するグローバル社会に対応する人材を育てるために必要不可欠な教育として、教養教育が多くの大学で注目されています。かつて、我が国の大学における教養教育のとらえ方には、専門教育課程に進むための書物などを中心とする専門的な知識や技能に必要な基礎領域として位置づけられていた節があります。一方、専門的な教育のみに傾倒し精通しているだけでは、物事のとらえ方や考え方に偏りが生じる可能性があり、正しい判断力を欠くことが懸念され、かえって社会の調和を乱す一因となる危険性があるのではないでしょうか。
市ヶ谷リベラルアーツセンター(ILAC)は、法政大学教育開発支援機構に設置されたセンターの一つです。ILACは、市ヶ谷校区の6学部(ただし、デザイン工学部及びグローバル教養学部を除く)における教養教育の在り方を検討し、専門教育科目のカリキュラムとの関連を図りながら、教養教育に関する共通カリキュラムの開発支援、およびその適切な運営を行うことを使命とし、本学の学士課程教育の充実化を図ることを目的としています。
規程によれば、ILACは、その目的を達成するために、各分科会のディプロマ・ポリシーを尊重しつつ、学部横断的な教養教育カリキュラムの開発・設計・提案・展開の支援を通じて、以下の事業を行うこととされています。
(1)市ヶ谷教養教育の適切な運営
(2)市ヶ谷教養教育の基本理念と教育目標・
目的の設定及びカリキュラム体系の構築
(3)英語教育、その他の外国語教育のあり方と
カリキュラム編成の検討及び適切な運営
(4)情報(ICT)教育のあり方と
カリキュラム編成の検討及び適切な運営
(5)キャリア教育のあり方とカリキュラム内容の検討
及び適切な運営
(6)自由と進歩の建学の精神の再確認と
その教育のあり方の検討及び適切な運営
(7)その他、センターの目的達成のために必要な事項
これらの事業に対して、ILACを構成する市ヶ谷6学部の教授会主任、および人文科学、社会科学、自然科学、情報学、英語、諸語、保健体育の七つの分科会の委員長が和衷協同し、提案事項や改善点を審議し、各学部へ提案します。ここで重要なことは、ILACが単にILAC科目を設置・運営するだけのセンターではないということです。すなわち、ILACには「学部が提案し設計する専門教育」と「分科会が提案し設計する教養教育」を相互補完的な観点から偏りのない相互接続を果たす調整機能が求められているのです。
ILACは2010年4月に設置され、初代のセンター長である太田九ニ先生から、2020年度の日中鎮朗先生に至る歴代のセンター長を中心に、多くの先生方によるご尽力によって、さまざまな課題が解決されてきました。しかし、2019年に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界に与えた変化は、大学における教育の在り方やその質を担保することの難しさを改めて浮き彫りにし、大学運営や学生生活を含む大学というシステム全体を見直す中で、新たな課題がILACにも投げかけられたように見えます。
「教養は幸運なときには飾りであるが、不運の中にあっては命綱となる」
この言葉は、「何のための『教養』か(桑子敏雄著著、ちくまプリマ―新書)」に書かれていた古代ギリシアの哲学者・アリストテレスの言葉です。教養とは、限りなく広く深い概念であり、一言で語り尽くせる言葉ではありません。そのことを承知の上で勝手に解釈するならば、教養とはいわば如何に生きるべきかという問いであると考えます。それは今後ますます激しく流動的で革新的な進歩を遂げいく高度な情報テクノロジーに基づくデジタル化社会を俯瞰した時、SDG'sにうたわれた地球規模の持続可能な問題解決に資する能力を育てることを、ひとつの教養教育の在り方と考えて良いのかもしれません。言い換えれば、学生一人一人が自らの生き方を主体的に打ち立て、現代社会のさまざまな問題に立ち向かうための「総合力」を養う教育がそうだと言えるのかもしれません。
今後の新しい時代においてILACでは、法政大学憲章(2016年制定)に示された「自由を生き抜く実践知」を土台とした「法政大学が創造的に追究する教育と研究の理想」を踏まえ、本学が掲げるミッションの一つである「新しい時代を構築するために、主体的かつ自立的に自らの力でものごとを考え、多様な立場に立って公正な判断を行い、その上で新たな価値を創造できる人」を念頭に置いて具現化するための取組みをどう推し進めていくかを常に考える必要があるでしょう。