「財政学」インタビュー

「財政学」インタビュー

2006.06.22

経済学部 廣川みどり先生・小林克也先生

2005年2月24日、多摩キャンパス経済学部棟にて、「財政学」の講座を講義内容を統一して担当しておられる廣川みどり先生と小林克也先生にインタビューをさせていただきました。以下、そのご報告です。

大沢:廣川先生と小林先生とは、経済学部「財政学」の講座を1コマづつ講義内容を統一して担当しておられるとお聞きしました。そのきっかけをお話しください。

廣川:「財政学」は経済学部の基礎科目ですが、昨年まで、開講は1コマで、私が担当しておりました。800人以上の登録があり、登録した学生の7割が出席すれば、教室は満杯です。学生数が多すぎるので、やる気のある学生とそうでない学生が混在した場合、きちんと講義ができない状態でした。そこで、今年から、クラスを2つに分け、一つのクラスを小林先生にお願いすることとなりました。それから、以前、「財政学」のコマが2つあった時代があります。私とは学問上のバックボーンの異なる先生が担当されておられましたが、学生から、同じ科目なのにまったく違ったことを行っている、という批判を受けました。その時は、「財政学」にも異なるアプローチがあるので、それなりによいのではないかと思っていました。その経験が、今回コラボをするようになったことへの伏線としてあります。

大沢:小林先生、コラボレーションで授業を行うことに抵抗はありませんでしたか。

小林:ありませんでした。「財政学」というひとつの科目を二人で担当するわけですが、学生のために、内容と試験をそろえた方がよいと考えました。そのうえ、教員にとっても、負担が減らせると考えました。それは、単に学生数が半分になって楽になるという意味ではありません。廣川先生の講義ノートをベースにさせていただいたので、私はただ乗りしたようなものです(笑い)。廣川先生と私とは、近代経済学という点で、バックボーンが同じでしたので、やりやすかった。

大沢:お二人で協力して「財政学」を担当されてよかった点は?

廣川:もとは私ひとりで担当していたわけですが、このテーマは入れた方がよいとか、あるいは削った方がよいとか、小林先生が改善点を指摘してくださったので、比較的楽に講義をブラシュアップできたこと、それと授業を客観的にみられるようになったことです。たとえば、以前は自分ひとりの目配りで資料を集めていたのですが、ひとりよがりになることがあったと思います。小林先生が資料について助言してくださったり、別な資料を提供してくださったりして、授業に厚みが増しました。

小林:たいしたことをしたわけではありません。廣川先生が作成されたレジメの裏側にスペースが空いていましたので、もったいないと思い、授業では詳しく触れられないけど、学生の関心を促して、将来的に探究心を触発しそうな話題を扱った新聞や雑誌の記事で埋めてみました。

廣川:コラボですと、片方が気のつかないところを他方が付け加えてくれます。例をあげますと、「マクロ経済分析」の講義のレジメの裏側に、小林先生が資料として「2005年ノーベル経済学賞――ゲーム理論、現実に応用」(『日本経済新聞』2005年10月12日朝刊)を付け加えてくださいました。授業のテーマと直接関係するというわけではありませんが、視野がひろがり、じわじわと効果を発揮する記事だと思いました。学生に大好評でした。

小林:学生といえば、廣川先生が説明しきれなかった箇所について、わからない点があったので、質問しにきた、という学生がいました。同じ内容のコラボですと、疑問があれば、どちらの先生に質問してもよい。

廣川:教員同士で、学生について相談できるメリットもあります。このレベルの内容なら、学生は理解できますよね、と確認しあうことができるのも大きい。

大沢:コラボレーションに伴う難しさについてはいかがでしょうか。人によっては、担当者間のコミュニケーションが面倒だと思うかもしれません。

廣川:私は、10月から11月にかけて入院してしまい、その間、小林先生は講義のペースをおとし、私にあわせてくださいました。足並みをそろえるのが難しい点、そこが問題でしょうか。

小林:今年は1年目でしたので、いろいろな事態を想定し、対応策を練る時間がありませんでした。対応が決っていれば、代講もできる体制になると思います。

大沢:同じ試験ということですが、採点や評価の難しさはありませんでしたか。

廣川:私の担当したクラスの方が成績はよかったです。理由として考えられるのは、試験をみすえながら、私は教室でしゃべっていたと思いますので、それがひとつ。それと、他の授業の取り方によって、試験の出来がクラスごとに異なります。近代経済学の知識があるのとないのとでは、理解度に大きな違いが生じます。それがもうひとつの理由。

小林:もっとロジックや計算を問うものがでるのかと予想していたら、暗記ものが多かった、ということを学生からいわれました。しかし、大きな問題だとは思いません。

大沢:それでは最後に、コラボレーションを他の先生方に薦めたいと思われますか。

廣川:ひとつの科目のコラボばかりではなく、科目間のコラボレーションが必要だと思います。たとえば、小林先生は「地方財政学」という講座をもっておられますが、「財政学」を履修したあと、「地方財政学」を履修するとよく理解できます。コラボにはそういうメリットがあります。いろいろな科目を積み上げる形にできれば、経済学は応用できるツールとなりえます。

小林:1年次から4年次まで体系化するのは難しいかもしれませんが、2年次配当の科目は1年次の基礎と3・4年次の応用とをつなぐものですから、少なくとも1年次基礎科目の担当者とコミュニケーションし、連携できる体制をつくりたいと思います。コラボには調整コストがかかりますが、これは実現可能です。

小林:話を同じ科目をコラボで行うことに戻しますと、トータルでみたら、仕事量は減らせるし、講義内容の穴は防げるし、相談できるメリットもあるので、お勧めです。廣川先生の講義ノートは、理論と現実のおさえるべきところをきちんとカバーし、3年次以降の応用へとつながる基本的な事項をおさえてありましたので、私自身の負担としては、授業で具体的にどのようなことを話せばよいのか考えるだけで済みました。

廣川:私たちの場合、小林先生が私の講義ノートにあわせてくださったのですが、講義ノートの作成からはじめる場合、難しいのはとりあげるテーマの取捨選択だと思います。私は、担当者によって多少の違いが出てもかまわないと考えていますが、いずれにしろ、1・2年次は基幹科目なので、パラダイムはほとんど同じです。ですから、コラボでいけると思います。

小林:個人商店ではなく、全体で動くのだという意識が先生方のなかに生じれば、うまく行きます。

大沢:ぼく自身の経験からも、コラボレーションにより、仕事量は減らせる、講義内容の穴は防げる、相談して複眼で授業をチェックできるメリットがありますので、トータルでは、小林先生のおっしゃるとおり、デメリットよりメリットの方が多いと思います。廣川先生、小林先生、本日はどうもありがとうございました。
 

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