学生・教職員による「新しい教養科目授業」の創造

学生・教職員による「新しい教養科目授業」の創造

2005.10.28

FD推進センター長 後藤篤子(文学部教授)

2005年月9月10日(土)、私と本センター施策開発プロジェクト・リーダーの草深守人(工学部教授)、FD推進プロジェクト・リーダーの新田誠吾(経済学部教授)、コミュニケーションプロジェクト・リーダーの大澤暁(国際文化学部教授)の4名は、岡山大学で開催された「学生力⊆教育改善」をテーマとするワークショップに参加してきました。

このテーマを見て、「何、それ?」を思う人もいるでしょう。実は岡山大学は、教育開発センター専任教授の橋本勝氏を中心に、全国に先駆けて学生参画型のFDを進めていることで有名で、同大学のFDを担っている学生・教職員教育改善委員会は、そのメンバーの多くが学部から推薦された学生なのです。このワークショップも教育改善に学生の力を最大限活用しようとする試みの一環であり、「筆記用具と、できれば教養科目のシラバスを1冊持参してください」としか言われていなかった私たちは、興味津々、でも何をやらされるのか皆目わからずチョッピリ不安、という状態で会場に赴きました。

昨年度の第1回ワークショップは中国・四国地方からの参加が主だったらしいですが、今年は北海道から九州まで全国の大学から、40名の学生と私たちを含め35名の教職員が参加していました。当日与えられたワークショップの課題は「新しい教養科目授業の創造」で、プログラム構成は以下の通りです。

まず、他大学からの参加者に岡山大学教育改善委員会の学生委員25名・教職員委員6名を加えた106名が、4〜5名から成る「ぷちグループ」に分かれ、10:20〜13:00の間に昼食を共にしながら新授業案を作成。13:00〜14:30、四つの「ぷちグループ」で構成される「でかグループ」ごとに集まり、各「ぷちグループ」案の発表と質疑応答、意見交換を行って「でかグループ」として一つの案に決定。14:30〜15:30、提案授業のシラバスと、発表用データ(ppt形式)を作成。16:00〜17:35はコンテストで、六つの「でかグループ」案の発表(各10分)と質疑応答(各5分)後、参加者全員が自分のグループ以外の授業案で最も優れていると思うものに投票。17:45〜18:00、投票結果発表と最優秀賞表彰が行われて閉会。各「ぷちグループ」には岡山大教育改善委員が少なくとも一人は加わっていて、携帯メールを駆使してグループ間の情報交換を定期的に行い、他グループで似たような授業案を検討しているとか、すでに同内容の教養科目が○○大にあるようだ、などの情報を提供してくれました。また、コンテストでの発表は、事前に依頼を受けた他大学からの参加学生が担当しました。

さて、実際にワークショップに参加しての感想は、分属した「ぷちグループ」「でかグループ」によって異なるようですが、私の場合は一言で言えば「面白かった!」。私が分属した「ぷちグループ」は岡山大の学生委員A君、他大学の学生Bさん、他大学の男性教員、私の4人で、はじめのうちこそ全員戸惑い気味でしたが、Bさんがほとんど「学生自主ゼミ」と言えるような基礎ゼミでの実体験を話してくれてから、話はどんどん盛り上がりました。「自主ゼミ」的実態では教員の関与がほとんど無い、教養科目である以上どの学部生にも興味が持てる内容であるべきで、かつ教員も関与するとなると、やはり身近なテーマを切り口にした多分野の教員による輪講しかないのでは?ということになり、その身近なテーマ探しでワイワイやったあげく、「食」に落ち着きました。

「でかグループ」での議論はさらに白熱したものになりました。と言うのも、四つの「ぷちグループ」が持ち寄った新授業案が、輪講形式による内容重視型と授業方法重視型に二分され、それぞれの案をめぐる質疑応答・意見交換を続けるうちに、つぎのような共通認識に至ったからです。身近なテーマでの輪講もよいが、単なる「受講」ではなく学生の主体的学習に結び付けたい。一方で、学生の主体性重視が、教員を単なるアドヴァイザーや議論の整理役にとどめてしまうのでは、教員が有する専門知識を学生に伝授できず、ある意味「もったいない」。そして、このジレンマを克服すべく、四つの授業案のいずれか一つを選択するのではなく、それぞれの良さを活かした「でかグループ」案を作ろうということになりました。

すったもんだの議論から生まれた新授業の骨格はつぎのようなものです。

1.たとえば「食」をテーマにするサイクルでは、担当教員が自分の専門知識に基づく発問を考えておいて、予備的講義を行ったうえで、最後に「遺伝子組み換え食品は是か非か」といった問いを発する。

2.学生は数グループにわかれ、グループで討議して問いに対する答の見通し(仮説)を立て、その仮説を論証するための調査、資料収集を行う。

3.各グループが自分たちの仮説を論証する発表を行い、最後にどのグループの論証が最も説得的であったか、全員が投票してポイントを競う。

4.担当教員が各グループの論証の良かった点、見落としていた視点等を総評し、専門家としての考え(「正解」が明確な発問の場合は「正解」)とその根拠を講じる。

以上の1〜4を1サイクルとし、1セメスターに3〜4サイクルを実施。1セメスターを一つのテーマで通して多角的な発問をしてもよし、サイクルごとにテーマを変えて次のサイクルの発問はたとえば「自衛隊は軍隊か否か」でもよし。年度最後に、取り上げてほしいテーマについて学生アンケートを行い、次年度のテーマと担当教員を決める。

骨格がようやくここまで固まった段階で、発表用データの送信締め切り時間が目前に迫り、成績評価方法の議論やシラバス作りは不十分のままに終わってしまいました。そのため、「でかグループ」の書記を務めてくれた岡山大のXさんと発表を担当してくれたY君のお二人には多大な負担をかけてしまい、申し訳なく思っています。結局、この授業案は時間切れアウトの観もあり、コンテストでは惜しくも次点。議論が白熱した分、グループ・メンバーの何人かは、けっこう本気で悔しがっていました。私もその一人。意外と(?)熱くなりやすい性格だということを、再認識した次第です。

それにしても、より良い授業を創り出すために学生・教員・職員が対等な立場で議論を尽くす経験は、刺激に満ちて楽しいものでした。同じ「ぷちグループ」に分属した他大学の先生も、「はじめはどうなることかと思ったけれど、面白いですねぇ」と仰っていました。

ワークショップ運営を担った岡山大学の学生・教職員の皆さん、本当にありがとうございました。今は、「でかグループ」での議論を、自分の授業の改善に何とか活かせないか、秘かに思案中です。上述の「新授業」案、法政大学のどこかで実現させてくれませんか?

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